オランダのロマン主義

Last meeting of William of Orange and Count Egmont (The Works of J. W. von Goethe, Volume 8)

『エグモント』の1シーン (1900) In Wikimedia Commons

ロマン主義とは

管理人も専門ではないのですが、「ロマン主義」とは18-19世紀のヨーロッパやアメリカで人気のあった文化・芸術運動です。文学・絵画・音楽など分野も多岐に渡り、概念の幅もけっこう広いので定義するのは大変難しいのですが、現在の自分たちの価値を、自分たちの過去(ギリシャ・ローマの古典時代ではなく比較的近い過去)のルーツに探ろうとする気運のことです。たとえば文学で代表的なものが騎士道物語。スコットの『アイヴァンホー』やデュマの『三銃士』が例としてわかりやすいと思います。音楽でオランダがらみのものでは、ベートーベンの『エグモント』などがまさしくそれです。

さらにわかりやすくいうと、

「じーさんのイトコのじーさんマジリスペクト!」

「その子孫のオレもスゲんじゃね?」 ←重要なのこっち

…って感じですかね…。(専門家には怒られそうな説明ですが)。

オランダのロマン主義

The rise of the Dutch Republic by John Lothrop Motley

John_Lothrop_Motley『The rise of the Dutch Republic』の表紙 In Wikimedia Commons

残念ながらオランダは、ロマン主義に乗り遅れている感はあります。それでも、文学芸術方面でとくに目立つものはなくても、歴史研究はそれなりに盛んであり、現在管理人がこの時代を勉強できるのも19世紀の研究者たちのおかげといえましょう。

ロマン主義時代の歴史家は超がつくほどのマニアです。一次史料を掘り起こしては、重箱の隅までつついてくれて、かなり詳細な著作を残してくれています。本当にありがたいことです。反面、あまりにも心理描写が詳しすぎるときには、著者の脳内で補完されている場合もありますので要注意。ナショナリズムの影響が強いことや、19世紀当時の「国家」の概念で過去を論じている場合があることにも考慮する必要があります。

ロマン主義歴史絵画

ほかには、少なくとも歴史絵画には、いかにもロマン主義っぽいなあ、と思うものがけっこうあったりします。

リアルタイム(16-17世紀)の歴史絵画とロマン主義時代(19世紀)の歴史絵画との違いは、下記の限りではありませんが、大体こんな傾向です。見慣れてくると、いつ頃描かれたものか簡単に見分けがつくようになってきます。

  • リアルタイム … 報道+プロパガンダ。報道写真的、またはカメラ目線の選挙ポスター的な感じ。(戦場にいるのにカメラ目線とかかなり不自然)。「情報」を伝えようとする意図がある。
  • ロマン主義 … 映画のワンシーンや、小説の一場面の挿絵ふう。動きや物語性や人物相関があり、5W1Hが明確。明らかに黒髪の人物が、不必要に金髪化されていたりするのも特徴。

下に挙げるのは、それぞれ同じ「ニーウポールトの戦い」をモチーフにしたもの。リアルタイムが「全体的にこんな戦いだったよ」と総括しているような絵なのに反して、ロマン主義は「戦いで捕虜になったスペインのメンドーサ提督が、オランダの総司令官マウリッツの前に連れてこられたシーン」と、かなり場面を限定しています。

Slag bij Nieuwpoort

リアルタイム「ニーウポールトの戦い」 (1610-1640) In Wikimedia Commons

Slag bij Nieuwpoort - Battle of Nieuwpoort (Louis Moritz)

ロマン主義「ニーウポールトの戦い」 (1800-1850) In Wikimedia Commons

躍動感、というかロマン主義のほうが「動き」も感じられます。「アルマダ」も2枚ならべてみました。船がただずらーっと並んでいるだけのリアルタイムと、火船による夜襲のシーンを描いたロマン主義と、違いは歴然です。

Invincible Armada

リアルタイム「アルマダ」 (1588-1599) In Wikimedia Commons

Spanish Armada

ロマン主義「アルマダ」 (1796) In Wikimedia Commons

見ていて史料として役立つのは当然リアルタイムのほう。着ているものなど当時の文物などを見るのにはこちらです。面白いのはロマン主義のほう。いつどこで誰がを謎解きしたり、絵そのものも野暮ったくなく洗練されている場合が多いです。ただ、ロマン主義歴史絵画の中には、脳内補完歴史記述同様に、見ているこっちが気恥ずかしくなってしまうくらい妄想全開っぽいのもあります。

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リファレンス

  • ヒュー トレヴァー=ローパー『ハプスブルク家と芸術家たち』 、朝日新聞社、1995年
  • ヒュー トレヴァー=ローパー『絵画の略奪』 、白水社、1985年
  • フロマンタン『オランダ・ベルギー絵画紀行―昔日の巨匠たち』 、岩波書店、1999年