バロック歴史絵画ギャラリー

ロマン主義歴史絵画の記事に対抗して(?)、16-17世紀当時の歴史絵画も集めてみました。やはり独断と偏見で、ただひたすら並べていきます。

もどうぞ。

場所はオランダに限らず、時代もややずれるものもあります。描かれた時代順ではなく、扱っている題材の史実における年号順に並べます。

一般的に「有名な絵」「良い絵」といわれるものではなく、人物に特化した「歴史として見ておもしろい絵」を中心に集めています。とはいってもおもしろい度はロマン主義ほどではないので、とりあえず数も半分ほど。ツッコミどころがあまりない反面、薀蓄はこちらのほうが多いです。

すべてウィキメディア内パブリックドメイン絵画の埋め込みHTMLソースを利用しています。ぜひクリックして拡大画像で見てください。

ギャラリー

El Greco - San Martín y el mendigo

El Greco (1597-1599) 「聖マルティヌスと乞食」 In Wikimedia Commons

歴史画に入る前に、まずはバロック絵画のサンプルとしてエル・グレコの宗教画「聖マルティヌスと乞食」。2013年の「エル・グレコ展」にも出展されていました(台湾・奇美博物館所蔵。上の画像はワシントン・ナショナルギャラリー版)。

4世紀の聖人をモチーフにしていながら、聖マルティヌスの着ているものは16世紀当時の鎧です。このようにバロック絵画は、題材の人物の歴史的背景とは無関係に、描かれた当時の文物が反映されている場合があります。逆にロマン主義絵画は歴史考証には細かいといえそうです。


Eworth Elizabeth I and the Three Goddesses 1569

Attributed to Hans Eworth (1569) 「エリザベス一世と三人の女神」 In Wikimedia Commons

1559年。即位10年後に描かれたものと推測されます。イングランド女王エリザベス一世の即位を三人の女神(アルテミス、アテナ、アフロディーテ)が祝っている図。このようにギリシャ・ローマ神話を題材にしたものは、古典主義の影響でバロックでもとても多いです。この場合の「神話」や「女神」には、宗教的な意味はほとんどありません。


Gloifizierung Philips II

Unknown (turn of the 16/17 th century) 「フェリペ二世への賛美」 In Wikimedia Commons

1590年前後。スペイン国王フェリペ二世が、ヨハネ黙示録の7つ頭の獣に擬えられたイングランド女王エリザベス一世を踏みしだいています。具体的な日時がわかっていませんが、アルマダ「前」と「後」の場合で解釈が違ってきそうです。左側の透明な球形のものは、オーブ(宝珠 Reichsapfel)と思いますが、透明でこれだけ大きいのはめずらしいと思います。


The-whale-beached-1617

Esaias van de Velde (1617) In Wikimedia Commons 「スフェーフェニンヘンの浜に打ち上げられた鯨と高貴な見物人たち」

1598年。「ナッサウ家 トリビア」内にも詳しく書いたんですが、管理人がこのモチーフ大好きなのでここにもカラーのものを。クジラの打ち上げ、というのは当時の娯楽?のひとつ。老若男女、身分に関わらず見物に行きます。この絵では人物の特定はされていませんが、ハーグ近郊の場所柄、このサイトでもおなじみの貴族の皆さんも見に来たでしょうね。とくにこの1598年のクジラは大きかったからか、20-30年後になっても多くの画家が描いています。


Allegorie auf Kaiser Rudolf II

Unknown (circa 1600) 「ルドルフ二世の寓意画」 In Wikimedia Commons

1600年前後。不思議生き物が多数登場するヘンテコな絵というとヒエロニムス・ボッシュが有名ですが、これはボッシュからヒントを得たと思われる作者不詳の作品。左の槍を持っているのが神聖ローマ皇帝ルドルフ二世の寓意で、右にいる相手は悪魔を表しているとか。見れば見るほどわけがわかりませんが、中にはやけに愛らしい生き物も…。


Adriaen van Nieulandt the younger - Prince Maurits with His Horse and Groom - Walters 372507

Adriaen van Nieulandt the younger (1624) 「マウリッツ公とその乗馬と馬丁」 In Wikimedia Commons

1600年(?)。描かれた1624年で考えると、ナッサウ伯マウリッツは実際の年齢よりだいぶ若いです。しかもこの馬、南ネーデルランド執政アルプレヒト大公から奪ったものという但し書きがあり、とするとニーウポールトの戦い(1600年)のときの馬ということになります。総じて、30代の頃のマウリッツを描いたものということになりそうです。冒頭に挙げたように、この絵も描かれた時点での風俗を反映しているため、マウリッツはまだ1600年当時にはないバフ・コートを着ています。しかも絶対に本人が着こなせないような流行最先端なスタイリッシュ感…弟のフレデリク=ヘンドリクのほうをモデルに描いたんじゃないかしら。


Album amicorum of Michael van Meer 013

Michael van Meer (1613-1648)「アルバム」より In Wikimedia Commons

1613-1648年。17世紀に「アルバム」という手法がありました。今でいうスケッチブックに近いものかと思いますが、カンバスではなく1枚ペラの紙に描かれており、裏移りなども見えています。当時の王侯貴族から市井の人々の暮らしを彩色で描き留めてあります。ファン・メールはアントウェルペン生まれで、ロンドンとハンブルクで年の半々を過ごしていたとのことで、このジェームズ一世のようにイングランドを題材にしたものも多いです。スケッチに添えられているメモ書きはオランダ語になっています。


Prager Fenstersturz Wahrhafftige Zeitung aus Prag

Unknown (1618) 「第二次プラハ窓外投擲事件」 In Wikimedia Commons

1618年。次の画像で挙げているようなエッチングと比べて、だいぶ荒い版画になっています。というのも、こういった類のものは瓦版(ガゼット、パンフレット)用に描かれたもので、とにかく情報とスピード重視のものだからです。これは三十年戦争の発端となった第二次プラハ窓外投擲事件を題材としたもの。個人的には、この中世をちょっと引きずった感のある、ゆるいタッチ(とくに落ちてる2番めの人の左足あたり)が非常に好ましいです。


T Recht ondersoec der Staten 001

Unknown (1619) 「大魚が小魚を食べる」 In Wikimedia Commons

1618-1619年。この時代のおもしろい絵というと、どうしても寓意画になってしまいます。1556年にピーテル・ブリューゲル(父)が「大魚が小魚を食べる」(=金持ちが貧乏人から搾取する)ということわざを教訓にして描いた寓意画を、そのままそっくり拝借して、1618年のマウリッツのクーデターに当てはめたものです。中央の大魚がオルデンバルネフェルト。小魚に書かれている名前はグロティウス、レーデンベルフ、ホーヘルベーツと、オルデンバルネフェルトと同時に逮捕された3人で、オルデンバルネフェルトのせいで巻き込まれてしまった…ということを表しているのでしょうか。遠くで打ちあがってる魚もオルデンバルネフェルトです。マウリッツも、魚の腹をナイフで割いているのと、端っこで知らん振りして釣りをしているのと、2人描かれています。

どちらにしても、いずれの側にもあまり好意的な絵ではなさそうです。ですが、ルドルフ二世の寓意画と同じく、一見グロテスクなものの、なんだか愛らしい魚もたくさん居ます。


Louis XIII Pastel

Louis XIII of France (before 1643) 「ルネ・ポティエールの肖像」 In Wikimedia Commons

1620-30年代? ルイ十三世「を」描いた肖像ではなく、ルイ十三世「が」描いた肖像。めずらしいので載せておきました。パステル画で、左上に国王ルイ十三世の署名も入っています。王侯貴族が画家から絵を習い、このように趣味にしていることもあります。


NG-NM-2970 Schild van een schildpad beschilderd met een portret van Frederik Hendrik (1584-1647), prins van Oranje, te paard

Unknown (1631) 「フレデリク=ヘンドリクの騎馬像」In Wikimedia Commons

1629年。スヘルトヘンボス奪還を祝って描かれたもの。モチーフはよくあるテンプレの騎馬像で何の変哲もないんですが、カメの甲羅を盾に見立てて描かれてるんですね。管理人も現物を何回か見ました。


Jan Asselijn König Gustav Adolf II in der Schlacht von Lützen 1635

Jan Asselijn (1635) 「リュッツェンの戦いのスウェーデン国王グスタフ二世アドルフ」In Wikimedia Commons

1632年。「グスタフを探せ!」…というほど難易度が高いわけでもないですが、国王が戦死した戦いにも関わらず、ロマン主義絵画のように、白馬に乗ってたりとか、そこだけライトアップされているとか、わかりやすい演出は一切ありません。同時代の絵画でも、それなりに国王を目立たせているものもありますが、敢えてここではモブっぽいものを選んでみました。


Jan van der Hoecke - The Battle of Nördlingen, 1634

Jan van den Hoecke (1635) 「ネルトリンゲンの戦い」 In Wikimedia Commons

1634年。「ネルトリンゲンの戦い」。この戦いをモチーフにした絵は、ルーベンスやスフートのものを含めいくつかありますが、周り天使飛んでたり、「いとこ殿初めましてコンニチハー」があからさまだったり、カメラ目線でポーズした写真だったりで非常にわざとらしい。それに比べてこれは自然でいい感じ。フェルディナントとフェルナンドの帽子に、さりげなくオーストリアとスペインの文化の違いが描かれています。


Philip IV. and Ferdinand of Austria

Gerard Seghers (1635) 「フェリペ四世と枢機卿王子フェルナンド」 In Wikimedia Commons

1634年。こちらはわざとらしいほうから一枚。「ネルトリンゲンの戦い」で勝利した弟フェルナンドを兄フェリペが労うの図、なんですが、どこをどう見ても仲良さそうに見えない。お互い後ろに何か隠し持ってそう。もともとはルーベンスの描いた絵のコピーです。ルーベンスが仲悪そうに描いたのか、写した画家が仲悪そうにしたのかは不明です。


Boye Marston Moor

Unknown (circa 1644) マーストン・ムーアの戦い「ボーイ」の死 In Wikimedia Commons

1646年。マーストン・ムーアの戦い。管理人の大好きな絵。凶悪なプードルの最期です。凶悪なプードルについてはこちら


Collier, Evert - Vanitas Still-Life - 1705

Evert Collier (1705) 「ヴァニタス」In Wikimedia Commons

「ヴァニタス」とは「現世のはかなさや虚栄に対する警告」を表す絵画。(参照:国立西洋美術館HP「ヴァニタス―書物と髑髏のある静物)。バロック時代の静物画に特徴的なモチーフのひとつです。栄枯盛衰、とか、盛者必衰、とか、平家物語っぽい言い回しのほうが日本人にはわかりやすいかもしれません。周囲には王冠をはじめとして、オーブ、ガーター騎士章、記念コインの図面、剣や財宝など王権を象徴するものがたくさん並べられています。しかし、処刑されたイングランド国王チャールズ一世の肖像が、これらの富の空しさを暗喩しています。


Rupert (Verelst)

Simon Pietersz. Verelst (before 1707) 「ライン宮中伯ループレヒト」 In Wikimedia Commons

1660年代以降。17世紀後半になると、肖像画もかなりナルシスト入ってくるようになりますね。ライン宮中伯ループレヒト(イングランドではカンバーランド公ルパート:凶悪なプードルの飼い主)の、ガーター騎士としての正装の姿です。この格好は王政復古後のものだとは思いますが、実年齢よりもかなり若く(ひげもありません)描かれているので、イングランド内戦時の想像図かもしれません。若い頃から騎兵隊を率い、一時期海賊まがいのことまでやっていたループレヒトですが、それを感じさせない優雅さ、とくに手は女性のように描かれています。

リファレンス

  • ヒュー トレヴァー=ローパー『ハプスブルク家と芸術家たち』 、朝日新聞社、1995年
  • ヒュー トレヴァー=ローパー『絵画の略奪』 、白水社、1985年
  • フロマンタン『オランダ・ベルギー絵画紀行―昔日の巨匠たち』 、岩波書店、1999年