パルマ公アレサンドロ・ファルネーゼ Alessandro Farnese di Parma e Piacenza

Claeissens Alessandro Farnese

Antoon Claeissens (circa 1590) In Wikimedia Commons

  • パルマ公およびピアチェンツァ公 Ducato di Parma e Piacenza、カストロ公 duca di Castro、ネーデルランド執政 Landvoogd van de Nederlanden
  • 生年: 1545/8/27 ローマ(伊)
  • 没年: 1592/12/3 アラス(仏)

生涯

パルマ公妃マルハレータの長男。つまり母方の祖父はカール五世。父方の一族には枢機卿などの聖職者が多く、父方の曽祖父は教皇パウルス三世。また、妻の曽祖父がポルトガル国王にあたり、ヨーロッパでも超一流ランクの貴族といえます。スペイン国王フェリペ二世にとっても甥にあたり、非常に信頼されていました。

1578年、前任者(母親のパルマ公妃は4代前)たちの相次ぐ失脚や死亡により、フェリペ二世よりネーデルランド執政に任じられます。早くもその翌年明けてすぐに、ファルネーゼはその政治的手腕を発揮して、アルトワ、エーノーを中心とする南部に「アラス同盟」を締結させることに成功しました。これにより、スペイン国王に対して低地諸州全体をあげて行われていた「反乱」は、この後北部(「ユトレヒト同盟」諸州)のみで続けられることになり、南部諸州ははスペイン国王および執政府の支配に帰順しました。「アラス同盟」諸州の大都市の中には、都市として独自にユトレヒト同盟に加盟しているものもありましたが、ファルネーゼは武力あるいは調停工作によってこれら都市をすべてアラス同盟側に取り込むことになります。

オランダではファルネーゼの執政就任からアルマダの海戦までのこの時期(1579-1588)を「パルマ公の九年」と呼んでいます。ファルネーゼは軍事的にも優れた能力をみせ、これらの諸都市や、「ユトレヒト同盟」側との境界にある諸都市を次々に攻略していきました。詳細については「パルマ公の九年」参照。ウィレム沈黙公の暗殺翌年のアントウェルペンの攻略とスヘルデ川の閉鎖は、ファルネーゼの軍事的成功の頂点ともいえます。

「アルマダの海戦」に際し、ファルネーゼは本国の艦隊と合流するため、いったんフランスのカレーに送られました。しかしオランダ側の封鎖によりファルネーゼの艦隊は出航できず、ファルネーゼはそのまま今度はフランス戦線に投入されます。フランスのアンリ三世の暗殺後、ユグノーのアンリ四世が王位を継いだため、それに反対する「同盟(カトリック・リーグ)」に助力するためです。パリ包囲などで活躍しましたが、ルーアンで手に負傷し、それがもとで徐々に健康を害していきました。北部では「マウリッツの1591年遠征」で多くの都市が共和国軍に奪還されており、ファルネーゼは再度ネーデルランドに向かいます。が、司令官として呼び寄せようとした息子は一向に現れず、宮廷ではファルネーゼの成功に対しての妬みも強まっており、執政の職を解かれてしまいました。病身のファルネーゼはスパへ療養に向かったものの、その後アラスで病死。フェリペ二世はこの有能な甥の死を非常に悲しんだそうです。

1590年代の共和国軍の攻勢は、もちろん軍制改革の功績もありますが、個人的にはこのファルネーゼの退場に因るところも大きいと思っています。マウリッツとファルネーゼがニアミスしたことは1591年に一度だけあるのですが、これは互いに直接対決を避けたため、「戦った」とまではいえないものです。ファルネーゼがネーデルランド戦線に留まり続けず、フランスへ転戦を命じられたことが、結果的にはオランダ側に有利に働いたともいえるでしょう。余談ですが、これは後のフレデリク=ヘンドリクとスピノラの関係にも当てはまると考えています。

一人息子だったファルネーゼはパルマ公としての責務もありましたが、領地パルマの経営については、息子のラヌッチョが摂政として執り行っていました。(息子が父親の後見になる、というのもめずらしいケースかと思われます)。妻はファルネーゼがネーデルランド執政になる前年に死亡しており、その後は戦役に明け暮れていたため、再婚はしていません。ちなみにこの息子のラヌッチョが、有名な劇場「ファルネーゼ座(テアトロ・ファルネーゼ)」を建設させています。

リファレンス

  • ウェッジウッド, C.V. (瀬原義生 訳)『オラニエ公ウィレム―オランダ独立の父』文理閣、2008年
  • フリードリッヒ・シラー『オランダ独立史』岩波文庫、1949年
  • University Leiden, “Personen
  • 1911 Encyclopædia Britannica
  • NDB